マルコおいちゃんのドイツ生活ああだこうだ事典 |
≪Bar di Marco≫から旧名に復帰しました。 |
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今はもう夢とも現(うつつ)ともつかぬ、ただ大脳皮質のどこかにこびりついたシミのような回憶になってしまった。
男の運転する古いアルファ・ロメオは、あちこちガタピシいわせながらもどうにか動いていた。
もちろん信号は、他の車同様に無視をして通り過ぎる。
トレド通りを北に向かって、ダンテ広場の手前を左に入った。そこは名高い、かのスペイン地区である。
薄緑の街灯が妖しく町並みを染めている。夜だというのに通りで遊ぶ子供たちがいる。
夜間あえて踏み込みたくない場所であるが、男はカラビニエリであるし、車から出なければいいからと、やや安心してガイドをまかせた。
通りに駐車した、おもに古いフィアットなどの車で、完全な形をしたものはひとつとしてない。
片方のランプがない、バンパーがない、ドアがへこんでいる、屋根がぼこぼこである、などなど。住民の荒んだ心持が伝わってくる。
あちこち一回りしてくれたが、見れば見るほど心が沈みこむ風景である。
最後のほうでは視線はその風景に向けられてはいるものの、もう何も見てはいなかった。
さて、70年代ものアルファ・ロメオは、そこを出た後、海岸に沿ってしばらく走り、そして高台のナポリ湾が一望にみわたせる岬に達した。
背後に薄黒くベスビオスがうずくまり、手前右にはこれもまた墨を流したようなナポリ湾。そこに突き出した卵城が照明をうけて浮かび上がっている。
左の高台は、サン・マルティーノがこれも照明でナポリを祝福するように光っている。
その下あたり、こまかく薄緑の街灯に区切られているのが、いま通りすごしてきたスペイン地区であろう。
こうしてみると何も感慨はない。ただの市街地のようにしか見えない。そこに住む人々の気持ちも何も伝わりはしない。
ただ街は闇の中に沈み込もうとしているばかりである。
このシリーズは、イザ版で主にシナを対象に続けてきました。
そこからはみでるものを、こちらにアップしようと思います。イザ版同様ごひいきに。